1人、部屋に戻った私は頭を抱えていた。
「どうしよう……兄たちは一体いつまでこの屋敷にいるつもりかしら。あの大きなトランクケースを見る限り今日、明日帰るとはとても思えないわ……」
こんな時、ジョンがいてくれたら相談に……。
え?
「ジョンて……誰だったかしら……?」
駄目だ、時折見に覚えのない人物がシルエットとして私の頭に浮かんでくる。けれども顔が少しも思い出せない。
「私……記憶喪失だけでなく、とうとう記憶障害まで起こしてしまったのかしら?」
その時。
――コンコン
扉をノックする音が聞こえてきた。
だ、誰!? まさか……兄達では!?
「は、はい!?」
上ずった声で返事をする。
「私だ、ユリア。入っていいか?」
その声は父だった。……ああ、良かった……。
「はい、どうぞ」
すると、カチャリと扉が開いて父が姿を現した。
「ユリア、実はお前に話があったのだが……ん? ひょっとすると勉強をしていたのか?」
父はテーブルの上に教科書やらノートが広げてあるのを見たのか、尋ねてきた。
「はい、そうです。成績不振で退学になるわけにはいきませんから」
「何? 成績が悪いと退学になる? 誰がそんなことを言ったのだ?」
「えっと、それは……」
あれ? 誰にそんなことを言われたのだろう?
「まさか成績が悪いからと言って退学にはならないだろう? こちらは多額の寄付金を支払っているのだから。しかし、勉学に励むのは良いことだ。ユリアは記憶喪失になってからは……うん、良い娘になったと思う」
「本当ですか?」
「ああ、以前のお前よりも今のほうが好ましい」
「ありがとうございます!」
良かった。少なくとも父は私の味方をしてくれそうだ。しかし問題は2人の兄たちである。彼らは私が偽物ユリアだと思っている。私は今の今迄自分がただの記憶喪失者だとばかり思っていたのだが、あの2人の出現でゆらぎ始めていた。ひょっとすると私は……偽物のユリアではないのだろうか?
「どうした? ユリア。具合でも悪いのか?」
父が心配そうに声をかけてきた。
「い、いえ。大丈夫です」
「そうか? なら良いが……それで話は変わるが、実はお前の為に護衛騎士をつけてやろうと思っていたのだが……」
父がそこで黙る。
「お父様、どうかされましたか?」
「いや……以前、ユリアに護衛騎士をつけてやった気がするのだが……どうも私の勘違いだったよ